Skip to main content

はるかなる道東: 野生に出会える場所

By 29th November 2019

札幌や道南の街明かりを離れ、パウダースノーの聖地ニセコを通り抜け、さらに「北海道の屋根」と呼ばれる火山群、大雪山連峰を超えると、北海道の最も東、道東地域にたどり着く。

どこまでも広がる平原と森林、火山活動が作り上げた湖、凍てつく海に向かいそびえる山々が織り成す、失われ、忘れられた未開の原野。

道東は野生が存在する場所、そして日本の秘境と言える土地の一つだ。

写真1 キタキツネ
キタキツネは亜寒帯に生息する動物で、北海道全域に分布する。日本の他地域に生息するアカギツネの亜種で、体はアカギツネよりも大きい。厚い毛皮に覆われたキタキツネは冬の寒さをものともせず、餌を探して畑を横切る姿をよく見かける。

誰も知らない原野、手つかずの自然の美しさ・・・。道東はユニークかつ多様な野生動物とどこまでも広がる自然が支配する世界だ。西の大雪山連峰と東の知床半島の間には肥沃な農業地帯が広がる。また、帯広を起点に湿原地帯や釧路市などを経て最東端の根室半島の先端に到達すると、第二次世界大戦後にロシアが実効支配し、日本が返還を求め続けている島々(北方領土)を望める。

道東地域の中央部には活火山と美しい湖があり、その湖畔にはいくつもの温泉が湧き出している。また、弟子屈町と、現在も噴煙が昇る硫黄山周辺の火山地帯には、美しい湖が3つある。世界屈指の透明度といわれる摩周湖、湖畔から温泉が湧き出す屈斜路湖、そしてアイヌの人々にとって重要な土地である阿寒湖だ。

この湖沼地帯から北東に向かって山々の頂が連なり、さらにユネスコ世界自然遺産、知床半島の森へと続く。この手つかずの原野はヒグマ、エゾシカ、そして雄大なオオワシの北海道最大の生息域であり、世界でも希少なシマフクロウの最後の生息地でもある。知床こそ真の原生林地帯であり、原始の自然が支配する野生の王国だ。

写真2 エゾシカ
エゾシカは北海道の固有種であり、ニホンジカの亜種としては最も大きい。大きな角が特徴の北海道を代表する動物だ。アイヌの人々は生活の資源として肉や毛皮を得るため、何世紀にもわたって狩猟してきた。

冬の道東は氷雪によって冷たく閉ざされ、同時に極めて美しい景観を織り成す。厳しく容赦のない極寒が地域を支配し、はるか北から吹きすさぶ風がロシア北部の沿岸から流氷を運んでくる。しかし、その外観とは裏腹に、この時期の道東には多くの渡り鳥が飛来し、生命に溢れる。華麗なタンチョウやオオハクチョウはこの地で越冬し、雄大なオオワシが海岸線に沿って滑空し、海から魚をさらっては誇らしげに巣に向かう。

写真3 オオワシ
気高い世界最大のワシ、オオワシは毎年冬になると餌の豊かな北海道沿岸に飛来する。アジア一帯では稀にしか目撃できない希少な鳥だが、道東に限れば海沿いの木の枝で、獲物を狙っている姿をよく見かける。

写真4 タンチョウ
優美な姿のタンチョウは、野生の個体数が一時100羽前後まで減少し、絶滅したと考えられていた時期もあった。その後の保護活動の努力が実り、今では約1,000羽程度にまで回復した。

北海道の流氷は、ロシア北極圏の厳しい寒気の下、ロシアと中国の国境を流れるアムール川で生まれ、流れ着いたものだ。オホーツク海に流れ込んだ川の淡水が海の塩分濃度を低下させ、水を凍結させて流氷を形成するのだ。北海道北部のオホーツク海沿岸では毎年1月から2月にかけて、緩やかな海流によって集められた白いパンケーキのような美しい氷塊が、壮大な広がりを見せる。そして港を凍りつかせ、海岸線を覆いつくす。

網走市周辺のいくつかの湖は、冬の極寒に屈して凍りつき、現実離れした美しい景観を描き出す。そして北海道最大の湖であるサロマ湖と、網走湖の湖上は、アイスフィッシング(穴釣り)ファンの楽園となる。冬に湖面に氷が張り、漁船が漁期の役目を終えて岸にあげられると、釣り人たちは湖上に踏み入ってドリルで氷に穴をあけ、厚い氷の下に隠れた魚を狙う。湖上に並ぶ釣り人たちのテント群は、格別に美しい景色の中に生命の色と動きを加える。

冬の道東に広がる純白の世界は、色彩と生命の一瞬の躍動ととともに、緩やかに絶え間なく変化していく。人を寄せ付けない亜寒帯気候の厳しさと、誰もが驚嘆する美しさをあわせ持つアジア最大のフロンティアの一つでは、力強い生命が息づいている。

写真5 オオハクチョウ
毎年冬になると、何百羽ものオオハクチョウが道東の湖に飛来する。屈斜路湖には、湖岸で温泉が湧くため冬でも凍らない小さな水域があり、大型の水鳥はここで冬をしのぐ。

Leave a Reply